レッドスペシャルの欠点

レッドスペシャルの矛盾点を根拠とともに列挙し、その理由を私なりに勝手に推理してみた。

 

しかし、レッドスペシャルのあら探しをする目的でこのページを書いたのではない。

あの素晴らしいサウンドの秘密を解明しようとすると、たくさんの不可解な点に行き着いた。

その不可解な点の謎を考察していくと、ブライアン・メイがどうやってそれを克服してQUEENサウンドに辿り着いたのかが、ちょっとだけわかったような気がする。

 

独断に満ち満ちた解釈ではあるが我慢してご覧いただきたい。

 

 

■不可解なボディ構造
ご存知のように、レッドスペシャルはセミ・ホロウ・ボディとされている。セミ・ホロウの定義はかなり難しいので省略するが、レッドスペシャルは「ボディ本体内部が一部空洞になっているチェンバー構造」である。

 

しかし、ここまで凝った構造にしておきながら、トップ材のピックガード下をあっさり全て掘って削ってしまっている。そもそもトップ上に3mmもの分厚いピックガードをつける事自体が、セミ・ホロウの特長を殺すことになる。普通ならトップは薄く残して、トップのボディ共振をある程度ピックアップで拾えるようにし、ピックガードはレス・ポールのような形状にして、コントロール類はバックの裏フタから配置するはずである。つまりGibson ES-335のような状態だ。

 

レッドスペシャルのようにトップごと掘ってピックガードで覆うだけなら、ピックアップがダイレクト・マウントのソリッド・ギターを少しくりぬいた程度である。しかもアーチドトップではないため、セミ・ホロウ効果は半減以下であろう。 よく、生音が大きくなった状態を「鳴りが良くなった」と言うが、エレキの場合は生音の大きさと、鳴りの良さと、PUとアンプを通した音の良さの3つは全く別のものであると思う (セミアコ系で生音が大きいほど、ハードロック系ではアンプを通すと音作りに苦労するのは経験された方も多いであろう)。

 

おそらく、当初ブライアンはES-335のアーチドトップをフラットにしたような構造を目指したのではないか。しかし、ボディ構造設計の後から(もしかすると製作途中に)、6つのスライドスイッチとブースタースイッチなどのアイデアや、後述するコントロールパネルの必要性などが出てきて、それに伴う配線やアーシングをピックガード下にうまく収めるために、やむを得ずトップを削ったと推測できる。

 

因みに、BURNS(バーンズ)のコピーモデルは、レッドスペシャルのようにトップ下を全てを削っていないが、スライドスイッチ類を収めるために、スイッチ側のボディのほうが大きい左右非対称設計となっているようだ。

(参考サイト「Burns Red Special大改造」)。

 

今回私も改造モデルを作ってみて、狭いキャビティ内に部品と配線を配置するのに苦労し、結局はノイズ対策を優先してレッドスペシャルのように削らざるをえなくなった。

  

  

■ショートスケール&24フレット
レッドスペシャルは、609mmのショートスケールに24フレットと、かなり変わった仕様だ。Fenderストラト系の648mm&21フレット、Gibson系の628mm&22フレットと比較するといかに短いかおわかりであろう。

 
ハイ・ポジションのフレット間隔はとても狭く、指の大きな男性には適さない。また、テンションが低いためサスティンが弱く響かないが、弦を押さえるのに強い握力を必要としない。ショートスケールの代表であるムスタングやジャガーなどは、リードギタリストよりもボーカリスト(特に女性が多い)やサイド・ギタリストの使用が多いことからも納得できる。また、スケールが短い分だけ、テンションがヘロヘロになり、トレモロのチューニングも狂いやすいとされている。 

  

そして24フレット仕様。これは後にブライアンがインタビューで「当初は1つの弦で2オクターブ出せれば良いと思ったんだけど、今となってはあまり意味がなかったネ」と答えている。24フレットのポジションをまともに使う曲は、クイーンを含めてほとんど存在しないことからも、あまり意味が無かったことは伺える。 

  

いや、意味が無いどころか、このショートスケール&24フレットは、このギターにかなり致命的な欠点(結果的には特徴)を与えたのである。(詳しくは引き続き下記参照) 

  

  

■ピックアップ
レッドスペシャルに使われているバーンズ製のシングルコイルピックアップは、市販のものをブライアン本人がリワイヤリングしたとされている。これには色々な説があるようだが、来日時に本人がそのような事を言った記事を見た記憶がある。

 

当時高校生だった私は、「リワイヤリング」という言葉に憧れて、市販のピックアップをバラして、釣りのリールを利用して試してみたことがある。その効果は当然ながら散々であった。素人が簡単に巻き直しができるようなものではない事を知った。物理的には巻き数を増やせばパワーが増すと思えるのだが、実際はそう単純ではないようだ。

 

ピックアップの良し悪しは「基本設計」と「巻き方」にあるようだ。後者はとても難しい領域で、専用のワインディングマシーンを使って適正に巻かなければ性能が出ない。素人がリワイヤリングしたとしたら、良い方向になる可能性は低いと思われる。

 

現在売られているバーンズのブライアン・メイモデルのピックアップは「シングルコイルよりパワーがある」と、シングルとハムの中間的なパワーを宣伝文句にしているが、実際はそうではないと思う。このピックアップは明らかにシリーズ配線する前提で設計されている。その根拠は、1つのピックアップ単体やパラレル接続したときのパワーの無さには辟易させられるからだ。この点では私のフェンダーやダンカン、ディマジオのいくつかのシングルPUと比較しても顕著である。  この点が欠点か長所かは賛否が分かれるところであろう。

  

  

■ブリッジに隣接したリアピックアップ
レッドスペシャルはリアピックアップがブリッジに隣接、いや、ほとんどくっついている。この位置にあると、弦の振動はまともに拾えずに、キンキンカンカンでサスティンも音量もない。

 
実際にリアピックアップ単体ではほとんど用を成さない。3シングルピックアップのギターで、いかにリアピックアップ単体の音が重要かは言うまでもないであろう。
何故こんな設計にしたのであろうか??   

 

それは、前述のショートスケール&24フレットの設計がもたらした大きな弊害であると考えられる。

 

つまりもともとのスケールが短い上に24フレットでネックエンドが長いため、ネックエンドからブリッジまでの長さがストラトよりも4cm以上も短いのである。

 
通常、シングルピックアップの場合はリアPUはブリッジから4~5cm程度距離をとるのがベストであるが、レッドスペシャルでこれをすると、3つのピックアップが相当詰まった状態となり、音もさることながら、見た目もかなり変になる。バランス的にはシングルの2ピックアップで丁度良い。

 

もちろん、ブライアンがシリーズ接続を前提に、ピックアップの位置を色々テストしてみてあの位置に決めたということも考えられなくはないが、マトモに考えれば、リアやセンターPU単体の音よりも、リア&センターのシリーズ接続の音を優先させるなどとは考えにくい。 やはり、 「ショートスケール&24フレット」の仕様が前提にあった(というか既に作ってしまった)ので、ピックアップ・レイアウトはこのようにせざるをえなかったというのが本音ではないであろうか。

 

ブライアン自身もリア・ピックアップ単体の音は使えないものと思っているらしく、少なくともライブではリア+センターのフェイズ・インにほぼ常時固定している。レコーディングでもリア単体と思われるセッティングは見当たらない。

 

こう言っては身もフタもないのであるが、普通のソリッド・ギターにハムバッキングPUをリアとセンターの中間あたりに1個だけ配置して、タップしてフェイズアウトのミニスイッチを1個だけ付ければ、クイーンサウンドはほぼカバーできるのである。さらにイコライザーで中高域を強調すればほぼ完璧だ。(もちろん外観上はレッドスペシャルとは似ても似つかないものとなるが)。

 

 

■シリーズ接続
これはブライアン自身が「当時はパラレル接続(ハーフ・トーン)なんて知らなかった。」とインタビューで述べていることから、当時の常識で言えば「設計ミス」であったことを認めている。

 

結果的に後付けで「既存の概念にとらわれなかった」と賞賛されているが、ギターの構造について全くの素人であったため「既存の概念を知らなかった」と言うのが正しいであろう。

 

一般的に、シングルとして設計されたピックアップをシリーズ接続すると、音のバランスがおかしくなる。これはハムバッカーの片側をコイルタップしても、ストラトのような良い音がしないのと逆の原理だ。 しかも距離が遠いピックアップをシリーズで繋ぐと、水の中で聞いているようなこもった音となる。もともとハムバッキングのような隣接した距離が、2つのピックアップの増幅効果と干渉によるノイズの打ち消し効果が最大限に発揮される。 現実的に普通のストラトのシングルPUでこの配線にすると、まともな音が出ない。

 

しかし、偶然?にもレッドスペシャルは前述の「ショートスケール&24フレット」が理由で、リアピックアップがブリッジに隣接しているため、リアピックアップは異常にトレブリーでパワーがない。しかもピックアップの間隔が非常に狭い。そのため、リアとセンターピックアップとシリーズ接続すると、ちょうどハムバッカーを若干こもらせたようなサウンドにまで改善されているのである。 この点も予め予測してブライアンが設計したと解説している本もあるが、それは後付けの理屈であろうと思う。何故なら、もっと音が良くなるピックアップレイアウトはたくさんあるし、そもそもその後苦心してトレブル・ブースター類を自作した理由の説明がつかない。

 

なお、余談であるが、レッドスペシャルのセンターPUのみが逆磁性となったのは1980年代中盤からだ。70年代までは、ピックアップの「Burns  Tri-sonic」の刻印は同じ方向を向いていたが、80年代中盤以降の写真から、センターPUだけ逆さを向いている。途中からこのことに気が付いて(もしくはメカニックの忠告などで)直したのであろう。 レッドスペシャルのノイズキャンセル効果は通常のハムバッカーよりは 少ないと思われる。

 

 

■ネック幅 

レッドスペシャルのネック幅、ネック厚ともに極太だ。手が大きく、しかもこのギターだけしか持っていないのであればネック幅は自分の手に合わせるか、ある程度の慣れによって使いこなせる。しかし、Fender系やGibson系など他にもギターを持っている人にはとても違和感があって弾きにくいであろう。

 

特にブライアンは親指で6弦を押さえるポジションを多用するが、我ら小柄な日本人にとっては無理がある。ナット幅もガットギター並みに広いため、「弦の間隔は広く、フレットの間隔は狭い」といった、かなり特殊な仕様となっている。ストラト系のギターと併用すると調子を崩すであろう(私が下手なだけかもしれないが・・・)。

 

ブライアンが何故このギターを弾きこなせたかと言うと、彼の手を見れば明らかだ。彼の手はいわゆる欧米人のゴツくて毛むくじゃらの大きい手ではない。 手はとても大きいのだが、ホワイトカラーのインテリ特有のきれいな手で、指が細くて長いのである。まるでピアニストのような手だ。自分の手や指にあわせて、ショートスケール&極太ネックという設計をしたのであれば、それはそれで凄い事であるが、設計当時は14歳前後だったことを考えると、偶然という気がしないでもない。

 

エレキギター(特にソリッドギター)の場合は「鳴り」というのはネックの材質や本体との接合方法に関係することが多く、「極太ネック+深いセットネック(正確には深いデタッチャブルネック)」というのはレッドスペシャルに何らかのメリットを与えていることは推測できる。それがピックアップとアンプを通して人間の耳でわかる効果かどうかは別問題だが。 

 

 

■スライドスイッチ 

スライドスイッチは切替え操作がしにくく、ノイズも入りやすい。また、ピックガード上で余計なスペースが必要で取り付けビスも2個ずつ必要だ。操作性や外観の点からエレクトロニクス製品や高級ステレオなどではほとんど使われることがない。私の知っている限りでは、ムスタングや変態系のビザールギター、昔の家庭の白熱灯やこたつの手元スイッチ以外ではあまり見たことが無い。

 

ギターでこのスイッチを使う場合、フェンダーのムスタングやジャガーなど、ピックアップのすぐ近くに隣接してスイッチを配置しているからである。つまりピッキングやストロークの邪魔になり、手が当たって誤操作の原因にもなるので、頭が短くて操作感の硬いスライドスッチが適している。 しかし、レッドスペシャルの場合は、トレモロアームの通常位置よりも下側にあるため、スライドスイッチである必要性は低い。(手に当たるのを嫌うのであれば、スライドスイッチの横方向の間隔をもっと狭くして、なるべく奥に押しやるであろう。レッドスペシャルのスイッチレイアウトは、操作にも不適なほど、えらく間のびしている。)

 

ブライアンが何故スライドスイッチを採用したのかはわからない。たまたま手元にたくさんあったか、安かったからか、何かの機器から取り外したのか・・・ 何れかの理由であろう。

もしかすると、当時のミニスイッチは今ほどコンパクトなものがなかった可能性もある。
スライドスイッチのメリットといえば、性能は良くないものの、とにかく安い。1個が数十円だ。 この点、ミニスイッチは数百円で、特殊回路のミニスイッチは1,000円前後する。


グレコがBM-900であえてスライドスイッチを採用しなかったのは、操作性や製造面を考慮すれば当然であろう。

 

 

■コントロールパネル
レッドスペシャルはコントロールパネルの上をピックガードが覆うといった面倒な構造になっている。上記のスライドスイッチのビスを隠し、ピックガード自体のビスを減らしてスッキリ見せるためという解釈が多いようだが、私はそうは思わない。

 

実際に、あえて今回はこの仕組みを真似してみたが、穴の位置合わせに尋常でない手間がかかり、とてもワリに合わない。量産は無理なのはもちろん、個人的には2度とこの作業をしたいとは思わない。GUILD、BURNS、BRIAN MAY GUITARSなど量産の認定コピーモデルはこれを採用していない(できない)のも納得できる。

 

何故ブライアンはこんな面倒なことをしたのか?

 

あくまで私の推測であるが、ブライアン本人も最初からこの設計にするつもりはなかったと確信している。
コントロールパネルの台座部分や本体へのビス止め部も、後から苦心して加工したような印象だ。

レッドスペシャルはあまりにも独創的な部分が多く、試行錯誤しながら製作途中に何度も音出しテストをする必要があったのは間違いない。そのたびにピックガード・アッシーと配線を付け外しするのは手間がかかるため、コントロールパネルで最低限のパーツを常に仮組みしておいて、いつでも音出しできるようにしていたと見るほうに合理性がある。

 

もちろん、コントロールパネルへの仮組みのアイデアが出た時点で、後からそのままピックガードを被せられるようにスイッチやポットの仕様や配置を決めたのではないか。 

第一、最初から安いスライドスイッチを採用するくらいなら、ビスが多少出ようが出まいが気にするわけがないし、そこまでの意匠的なこだわりとセンスが14歳のブライアン少年にあったとは思えない。

 

 
■トレモロ・ユニット
トレモロ・ユニットおよびローラー・ブリッジの仕組み自体は非常に独創的であり、ショートスケールにもかかわらず狂いの少ないと思われるチューニングに一役買っているのは間違いなさそうだ。

 

しかし、ナイフエッヂがトップ材の下に挟まれて貼られているため、このナイフエッジの支点部分に磨耗が発生した場合などは、修理や交換の場合の作業はとんでもなく大変なことになる。トップ材を剥がさなければならず、きれいに剥がれなければボディ材の部分的な補修、バインディングのやり直し、そして再塗装が必要となる。

 

この仕組みを素人が真似するのは、費用対効果だけで言えば、あまり意味がないであろう。レプリカのユニットは非常に完成度が高いが、高額なうえに既存のボディ(特にソリッド・ギター)に後付けするのは困難であろう。やはり現実的には汎用のトレモロ・システムのどれかを採用するのが良さそうだ。

 

ちなみに、ブライアンは繊細なアームダウンによるビブラート的な使い方がほとんどであり、アームアップやエディ(EVH)のような激しいアーミングはあまり見られない。よって、シンクロのようなフローティング・システムのトレモロはチューニング面から考えても、「BM-50th計画」で採用する意味はあまり無さそうだ。

 

 

■ボディ形状
レッドスペシャルはオーソドックスなようで斬新かつエレガントさもあるデザインである。しかし、レッドスペシャルのコピーモデルを座って弾くととても弾きにくくすぐに疲れる。原因はボディ・バランスの悪さと、下側(地面側)のカッタウェイの形状が座って弾くのに適していないからである。ボディ中部の丸みや重さと比較すると、膝に乗せる部分のカッティングが短いのである。

 

逆に、ストラトやレス・ポールがいかに人間工学を意識して考えられたデザインであるかがわかり、普遍的(不変的)なモデルとなっているのも納得できるのである。

 

 

                    ⇒ 改善点の設定

 

 

 

ブライアン・メイ レッドスペシャル50周年企画 自作・改造・製作 Brian May RedSpecial